2026年7月28日に熊本県熊本地方で発生した最大震度7の地震は、2016年熊本地震から約10年を経て、改めて日本列島が「活断層の国」であることを私たちに突きつけました。

日本では巨大地震というと、しばしば南海トラフ地震や首都直下地震に注目が集まります。しかし、今回の熊本地震が示したように、内陸の活断層が活動した場合でも、一瞬にして都市機能や産業基盤を麻痺させるほどの被害が発生します。

ここでは、熊本地震を地震学的な観点から考察するとともに、日本各地に存在する活断層の特徴やリスクを整理し、今後の防災と産業安全保障について考察します。


熊本地震はなぜ発生したのか

熊本県には、日本でも活動性が高いとされる布田川(ふたがわ)断層帯日奈久(ひなぐ)断層帯が存在します。

この二つの断層帯は九州中部を北東―南西方向に延びる大規模な活断層系であり、2016年熊本地震では両断層帯の一部が連続的に破壊されました。

2026年の地震も同じ断層系周辺で発生しており、熊本地域が地震活動の活発な地域であることを改めて示しています。

ただし、「2016年の地震があったから2026年の地震が必然的に起きた」と断定することは地震学的にはできません。現在の科学では、断層に蓄積した応力や断層間の相互作用は研究されていますが、個々の地震の正確な発生時期を予測することはできません。一方で、大地震後には周辺断層の応力状態が変化し、その後の地震活動に影響を与える可能性があることは広く研究されています。


活断層型地震の特徴

熊本地震は典型的な内陸直下型地震です。

海溝型地震との最大の違いは、

・震源が浅い

・都市の直下で発生する

・短時間で極めて強い揺れになる

という特徴があります。

そのためマグニチュードが海溝型地震より小さくても、局所的には甚大な被害になります。

2016年熊本地震でも、マグニチュード7.3という規模でありながら、震度7を二度観測し、住宅や橋梁、道路などに壊滅的な被害が生じました。

今回の2026年地震も同様に、震源が浅かったことが局地的な強震動につながったと考えられています。


日本には約2,000本以上の活断層が存在する

地震調査研究推進本部などの調査では、日本には数多くの活断層が確認されており、そのうち主要な活断層帯だけでも百を超えます。

活断層は「今後も活動する可能性がある断層」であり、数万年から十数万年程度の期間に繰り返し活動した痕跡が認められるものです。

問題は、多くの都市が活断層の近くで発展してきたことです。

日本の平野部は断層活動によって形成された地形が多く、人口や産業が集中する地域と活断層が近接している例は少なくありません。


全国で特にリスクが高いと評価される主な活断層帯

現在、政府の長期評価などで重点的に調査されている活断層帯には、次のようなものがあります。

中央構造線断層帯は、西日本を横断する日本最長級の活断層帯で、九州から四国、紀伊半島、中部地方まで延びています。一部区間が活動した場合でも広範囲に影響が及ぶ可能性があり、地域ごとの評価が進められています。

糸魚川―静岡構造線断層帯は、日本列島を東西に分ける重要な地質構造に沿う断層帯です。長野県から山梨県、静岡県にかけて人口集積地や交通網に近接しており、大規模地震への警戒が続いています。

立川断層帯は東京都西部に位置し、多摩地域に大きな影響を与える可能性があります。首都圏の人口・経済活動への影響が大きいため、社会的な関心も高い断層帯です。

上町断層帯は大阪市中心部の地下を通るとされる断層帯で、大阪都市圏への影響が懸念されています。

有馬―高槻断層帯は兵庫県から大阪府にかけて延び、阪神地域の重要な活断層の一つとされています。

森本・富樫断層帯は石川県金沢市周辺に分布し、北陸地方の都市部に近接しています。

このほか、北海道の日高地方、東北地方、中部地方、中国地方にも活動性が評価されている断層帯が数多く存在します。


熊本地震との共通点

これらの断層帯には共通した特徴があります。

第一に、都市直下または都市近郊を通過していることです。

第二に、産業集積地を横断していることです。

第三に、道路、鉄道、高速道路、送電網など国家インフラが集中していることです。

熊本地震は「住宅被害」だけではなく、

半導体工場

物流拠点

高速道路

新幹線

空港

などが同時に影響を受けました。

これは今後、他地域でも同じことが起こり得ることを意味しています。


活断層地震が産業へ与える影響

近年は製造業の高度化に伴い、一つの地域に重要産業が集中する傾向があります。

熊本では半導体産業、

愛知では自動車産業、

大阪では化学・医療産業、

東京では金融・情報産業、

それぞれ巨大な経済集積が形成されています。

活断層地震は都市直下で発生するため、

・工場停止

・物流停止

・データセンター停止

・通信障害

・金融決済障害

などを同時に引き起こす可能性があります。

つまり、現代社会では「都市災害」と「産業災害」がほぼ同義になりつつあるのです。


地震学から見た今後の課題

地震学は近年大きく進歩し、断層分布やプレート運動、強震動のメカニズムについての理解は深まっています。しかし、「いつ、どこで、どの規模の地震が発生するか」を正確に予測する技術は確立されていません。

そのため、防災の基本は「予知」ではなく「備え」にあります。

耐震化、インフラの冗長化、サプライチェーンの分散、企業の事業継続計画(BCP)、医療・福祉分野の災害対応力の強化など、多層的な対策を積み重ねることが現実的なリスク低減策となります。


熊本地震が示した日本社会へのメッセージ

熊本地震は、一つの地域で起きた局所的な災害ではありません。それは、日本の産業構造、都市構造、防災政策の課題を映し出す出来事でもあります。

2016年の熊本地震では、活断層地震がサプライチェーン全体に影響を及ぼすことが明らかになりました。2026年の地震では、半導体産業という国家戦略産業が集積した地域で再び大規模地震が発生したことで、「産業安全保障」と「防災」を一体的に考える必要性が一層鮮明になりました。

日本列島には今後も活動する可能性のある活断層が各地に存在し、その多くは人口密集地や産業集積地に近接しています。だからこそ、防災は被害を減らすための取り組みにとどまらず、社会機能と経済活動を維持するための国家的な基盤整備として位置付ける必要があります。

熊本地震は、「災害に強い都市」をつくるだけでは十分ではないことを示しました。これから求められるのは、「災害が発生しても社会と産業が止まらない国」を目指すという視点であり、そのためには地震学、都市工学、産業政策、防災科学を横断した総合的な取り組みが不可欠であると言えるでしょう。